全国各地域に科学技術教育を新たに芽吹かせる
―通信学会・大学・科学館が連携して―
科学系博物館活用 電子情報通信学会&
中央大学ネットワーク推進協議会
事務局 尾崎 芳彦
(中央大学理工学研究所事務室長)

1. 平成 12 年度,13 年度の 2 ヶ年にわたって,全国各地の大学・科学館で開催

  文部科学省生涯学習政策局の委嘱事業として,科学系博物館活用 電子情報通信学会&中央大学ネットワーク推進協議会を形成して,全国各地( 13 地域)の大学・科学館( 12 大学・10 科学館)で,科学実験教室,講演会,見学会(大学研究施設,製造メーカー施設,発電所,他県科学館,etc. )等を展開してきました。平成 12 年度は全国 8 地域(札幌市青少年科学館・苫小牧工業高等専門学校,秋田県・フェライト子ども科学館,仙台市科学館,新潟県立自然科学館,中央大学・科学技術館,広島市こども文化科学館,高知工科大学,那覇市立教育研究所)で実施し延べ約 1900 人が参加。平成 13 年度は全国 13 地域(前記の他に,苫小牧科学センター,福井大学,大阪市立科学館,愛媛立県生涯学習センター,福岡市立少年科学文化会館,科学技術館)で実施し延べ約 3500 人以上(小中高生,社会人)が参加しています。この事業は,電子情報通信学会に加盟(大学研究者・院生等,企業技術者で構成,約 4 万人)している全国各大学(国公私立)の研究者と全国各地域の科学館とでネットワークを形成して,電子情報通信学会と中央大学理工学研究所がネットワークの事務局機能を担い,2 ヶ年にわたって推進してきたものです。

苫小牧科学センター
苫小牧科学センター
奈良先端科学技術大学院大学
奈良先端科学技術大学院大学
中央大学
中央大学
那覇市立教育研究所(海水揚水発電所)
那覇市立教育研究所
(海水揚水発電所)
新潟県立自然科学間
新潟県立自然科学館
愛媛県立生涯学習センター
愛媛県立生涯学習センター

科学系博物館活用電子情報通信学会&中央大学ネットワーク推進協議会の構成
(大学・科学館,担当者)
大学・科学館 担当者 所属・職(平成14年3月現在)
北海道大学
 
札幌市青少年科学館
伊藤精彦
 
黒河雄幸
名誉教授
苫小牧工業高等専門学校長
学芸員
秋田県立大学
フェライト子ども科学館
阿部紘士
佐藤 正
システム科学技術学部教授
館長補佐
東北大学
仙台市科学館
内田龍男
八柳善隆
大学院工学研究科教授
学芸員
新潟大学
 
新潟県立自然科学館
仙石正和
石井 望
日根之和
工学部教授
工学部助教授
副館長
中央大学
 
 
 
科学技術館
伊理正夫
 
牧野光則
尾崎芳彦
秋田博文
理工学部教授・理工学研究所長
ネットワーク協議会代表
理工学部助教授・ネットワーク協議会事務局
理工学研究所事務室長・ネットワーク協議会事務局
学芸員
福井大学 渡辺貞一
桜井哲真
工学部教授
工学部教授
大阪大学
大阪市立科学館
白川 功
長谷川能三
大学院工学研究科教授・工学部長
学芸員
広島市立大学
広島市こども文化科学館
吉田典可
沖本 博
村上 聡
森島浩一
情報科学部教授
館長
学芸員
学芸員
高知工科大学 寺田浩詔
福本昌弘
春田 暁
教授・副学長
助教授
情報管理課長
松山大学
愛媛県生涯学習センター
田崎三郎
竹内 正
経営学部教授
振興課係長
九州大学
福岡市少年科学文化会館
西 哲生
盛多俊朗
石田昌平
大学院システム情報科学研究科教授
学芸係長
学芸員
琉球大学
那覇市立教育研究所
翁長健治
名嘉元裕
仲村 功
名誉教授
主査
主査
電子情報通信学会 家田信明
井戸せい子
事務局長
総務部課長補佐・ネットワーク協議会事務局


2. 大学の先端的な研究を科学館活動に取入れ,より一層活発な活動を展開

  各地域の大学・科学館の連携活動は,以前から幾つかの地域で実施されているようですが,この度の文科省の助成を受けた大がかりな連携活動は初めてのようです。大学研究者の先端研究・応用研究の最前線領域(主として IT 分野)が小学生高学年・中学生・高校生・一般社会人向けに分かりやすく解説されて紹介されたことは,有る意味では画期的なことではないかと理解しております。どの分野を問わず,大学研究者が自分の研究領域の全体像等を専門用語・概念を駆使して解説することは,研究者にとってはごく自然なことですが,それを一般人とりわけ小学生高学年にまで理解できるように説明することは,たいへんな難題であるようです。しかし,ほとんどの大学研究者は,この難題を入念な準備等によって参加している小中高生・一般人に理解しやすい内容に創り換えて解説されていたと云えるように思います。中には準備等の不足もあってか一方通行の解説がなかったわけではありませんが,それも,参加者に理解されていない,受け容れられていないと云う現場での経験・判断が素早くなされて,次からは大きく改善されているものを幾つか見聞することができました。やはり大学研究者は本来的に教育者でもあるのだとこの委嘱事業を通じて実感することもありました。かつて随分以前に,プリンストン高等研究所時代の最晩年のアインシュタインが,近所の子供に初等数学(初等物理学だったかもしれません。)を教えている状景の写真を見たことがありますが,これはけだし優れた教育の在り様の一つではないかと思います。このように最高の研究頭脳が,初等的基礎的な教育を必要としている子供達に携わるということは,極めて優れた人間の教育的行為だと云えるように思います。知の最高レベルを保持して,それをそのまま知の初等レベルに組み換えて教えることができれば,最高レベルの教育が実現できていることになるのでしょう。これは牽強付会に見えるかも知れませんが,日本の歴史の中にも在るように思われます。インドから中国に伝わって曇鸞,善鸞によって継承・生成・転換・発展していった浄土教(仏教)が,13 世紀の日本で,親鸞の『教行信証』によって浄土仏教教義の集大成がなされ,更に親鸞は,その集大成された彼の宗教哲学思想の世界を根源的に組み換え,エッセンスを取り出して,『歎異抄』として創出したと云えるように思います。このことは,当時の東アジアの知の最高到達地平から,当時の極く普通の人々(大半が百姓・農民でした。)の知の地平(あるいは非知の地平)に静かに着地して,新たな知を共有する場を広げていったことをイメージできるように思われます。現実の大学研究者は,大学の教育研究を担い,他に大学の管理運営的業務,更に産学連携上の仕事が加わって,たいへん多忙でありますが,年に 1 〜 2 回程度ならば科学館等と連携して,各地域での科学技術教育を拡大充実して行くことに,これまで以上に貢献して行けるのではないかと思います。この委嘱事業を契機に,各地域での科学技術教育を拡大充実して行くことを,各大学関係者は期待し願っていることをお伝えしたいと思います。

大阪市立科学館
大阪市立科学館
高知工科大学
高知工科大学
広島市こども文化科学館
広島市こども文化科学館
札幌市青少年科学館
札幌市青少年科学館
新潟県立自然科学館
新潟県立自然科学館
中央大学
中央大学


3. 地域に根ざして学校教育と共振し合う科学技術教育の推進
  −棲み分けを固定化しないで−


  昨年夏休み( 8 月)に,名古屋市教育委員会の要請を受けて,中央大学で名古屋市小学校教諭の方( 1 人)の研修を受け入れて実施しました。期間は 10 日間で,電気電子情報通信関係の先生と大学院生に担当して貰い,IT 関連の基礎と先端の技術について研修をして貰いました。文部科学省が学校教育の現場に大々的に IT 教育を取り入れ実施するということを新聞報道等で伝えられてきていますが,幾つかの地域では,小中高の先生が科学館等で数年間研修する方法が取り入れられている様子を見聞することができました。高度な情報化時代・社会の確実な進展の中で当然の施策・措置と考えられますが,問題はそのコンテンツになるかと思います。このコンテンツを拡充して行くには,各種研修等を通じて,大学・小中高及び産業界との相互交流・相互派遣等の施策が必要であるように思われます。実際この種のことが現実のものとなると,各界に少なくない負担が生まれると考えられますが,日本では高度成長過程で牢固として固まってしまった感のある相互の棲み分け領域を,確実に一歩一歩踏み越え,横断し,切り崩し,再編成して行く長い長い道のりを歩んで行く努力を,こん日私たちに求められているのではないでしょうか。

中央大学(IT研修)
中央大学( IT 研修)
愛媛県生涯学習センター
愛媛県生涯学習センター
那覇市立教育研究所
那覇市立教育研究所
福井大学
福井大学


4. ダイナミックにモチベーションを高めて
  −財政難・少子化・高齢化の中で−


  全国各地域で開催されている科学館・大学へ見学・調査に行きましたが,ほとんどの科学館・大学では用意周到に準備され,多くの参加希望者があって,科学実験教室等では施設・器具等の使用に制限があるため,やむをえず少なくない申し込みを断っている事例を幾つも聞きました。従って実際上の参加者の 2 倍以上の参加を期待できたとも言えるかと思います。
  一方で,少子化・高齢化社会へと進んでいる日本社会において,大学も科学館も小さくない問題に直面しているように思われます。日本経済の停滞=国家財政の縮小=地域経済の低迷・縮小=各種予算縮小へと連鎖して,地域における科学館活動・運営に小さくない影響をおよぼしていると考えられます。これらの経済・財政環境の中で,今回の文科省の助成金による委嘱事業は,大学・科学館関係者から異口同音に歓迎され,今後も継続してもらいたいとの強い要望があることをお伝えしたいと思います。ここでもう一つふれておきたいことは,このような良くない経済・財政環境の中でも,科学館の取組み方によっては,小さくない差異が現れている事例があることです。例えば,フェライト子ども科学館(秋田県仁賀保町,人口・約 1 万 2 千人)では,年間参観者・利用者=約 6 万人であり,ある県庁所在都市(人口・約 20 万人)の市立科学館(本ネットワーク協議会に参加していない。)も年間参観者・利用者=約 6 万人であるという実態があります。このことは,各々の地域特性(施設・設備,スタッフ,交通事情,財政等)を具体的に比較していないで断言的なことは言えないのかも知れませんが,科学館活動を日々推進しているスタッフの方々のモチベーション(企画構想力・宣伝力と事業推進意欲)への依存度が高いように思われます。科学館活動の特性から云って,魅力的な事業等を提供することによってリピータとしての参観者・利用者がどれだけいるかということが重要なポイントであると考えられるからです。このことは,もちろん私たち大学関係者も同種の課題を担っていることを申し上げておかなければならないと思います。
  この 2 ヶ年の連携活動が,通信学会・大学・科学館にプラス経験として蓄積され,各種の新たな連携活動へと発展して,各地域・各組織に新しいパワーが生まれることを願っています。

仙台市科学館
仙台市科学館
福岡市立少年科学文化会館
福岡市立少年科学文化会館
秋田県・フェライト子ども科学館
秋田県・フェライト子ども科学館
大阪市立科学館
大阪市立科学館




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